全体スケジュール
信託SO導入の全体スケジュールおよび各タスクの主担当は概ね下図のとおりです。
受託者選定に時間を要することがありますが、ここが決まると、設計・評価・法務面での対応含めて1~2ヶ月程度で信託SOの発行が可能となります。
また、スタートアップのアーリーステージのようにステークホルダーが少なく意思決定がスピーディーに行える場合は、全体で1ヶ月程度の発行も可能です。
受託者選定
一般的に未上場企業の信託SOは民事信託として組成されるため、受託者は社外の顧問税理士等が望ましいと解釈されています。
この点、社内役員または従業員を受託者にすることの可否が論点となることがありますが、社内受託者での上場事例が無いこと、および下記の法人税法12条2項に定められる「みなし受益者」の観点から、社内受託者の選定は避けるべきであると考えられます。
法人税法12条2項
信託の変更をする権限(軽微な変更をする権限として政令で定めるものを除く。)を現に有し、かつ、当該信託の信託財産の給付を受けることとされている者(受益者を除く。)は、前項に規定する受益者とみなして、同項の規定を適用する。
信託契約本数の決定
信託型ストック・オプションにおいて、信託契約数とは「ストック・オプションがどのタイミングで受益者に交付されるかを決定するパラメータ」と理解すると分かりやすいでしょう。
ストック・オプションが将来の受益者に交付されるのは、信託契約の満了時とされるのが一般的です。そのため、例えば信託契約を1本にして「5年後に満了」とした場合、5年後のポイント付与状況に応じて受益者に交付されることが想定されます。
一方、例えば信託契約を3本にした場合、「2年後」「4年後」「6年後」にそれぞれ1/3ずつ交付されるような設計が可能となります。
ストック・オプションの設計・評価
信託型ストック・オプションは信託契約と有償ストック・オプションの組み合わせであり、有償ストック・オプションには「発行価額」と「行使価額」の二つの評価概念が存在します。
発行価額:有償新株予約権を発行する際、受託者が発行会社に払い込む金額(正確には新株予約権1個あたりの払込金額)。さまざまな行使条件を付した上でのオプション・バリューとして算定されることが多い。
行使価額:将来、受益者となる役員・従業員がSO行使する際に払い込む金額。一般的には信託SO発行時点の時価として設定されることが多い。
そのため、信託SOに関する価値評価には、
「発行価額としてのオプション・バリュー算定」
「行使価額の決定を目的とした株式価値算定」
の2種類が存在することとなります。
信託契約書の確定・発行要項の確定
信託型ストック・オプションは信託契約と有償ストック・オプション(有償新株予約権)の組み合わせのため、信託契約書の内容を確定し、かつ、有償新株予約権に係る発行要項を確定する必要があります。
信託契約書については細かい内容が多く、また、専門的事項も多いため、契約当事者である委託者・受託者・発行会社に対して契約内容の事前説明がなされることが一般的なため、このセッションでそれぞれの立場で不明点等を解消していくこととなります。
また、発行要項の作成はストック・オプション評価・設計と並行して進めることが多く、実務上は設計・評価が終わったタイミングでほぼ発行要項も確定しているケースが多いでしょう。
各種払込・株主総会決議
信託型ストック・オプションの発行に際しては、委託者・受託者・発行会社による信託契約書の締結(3者間契約)が必要となります。
また、新株予約権発行のために、発行体による株主総会決議が求められます。
一般的には総会開催当日に金銭の授受まで行うため、まず、信託契約書において定められた当初信託金を委託者から受託者に払い込みます。
そして、受託者は委託者からの払込を確認した後、すみやかに発行会社に対して有償新株予約権の発行対価を払い込みます。
最後に、発行会社が受託者からの払込を確認することにより、信託SO発行に係る金銭の授受が完了します。
まとめると、
・信託契約の締結(委託者&受託者&発行会社)
・当初信託金の払込(委託者→受託者)
・有償新株予約権の発行価額払込(受託者→発行会社)
・株主総会の開催・承認及び議事録作成(発行会社)
が同日に行われることとなり、それぞれの事務負担が発生する一方、どれか一つでも欠けると有効な信託SO発行とならない可能性があるため、当該日付のプロセスは入念に事前確認を行う必要があります。
新株予約権の発行登記等
信託SOは有償新株予約権として発行されるため、総会決議を経て発行承認がなされ、かつ、払込まで確認した時点で新株予約権の発行登記を行います。
また、信託SOとしての有償新株予約権が発行されたため、新株予約権原簿の更新を行う必要があります。管理資料のため社内対応しても問題ないですし、信託SOに係る法務サービス一式にここまで含まれていることも多いです。
最後に、新株予約権原簿とは別に、資本政策表(Cap Table)にも信託SO発行をなるべくタイムリーに反映させるとよいでしょう。
ポイント付与規程の策定等
信託SOは各信託契約が満了する際に、当該信託契約に紐づけられた有償新株予約権が、付与されたポイントを参考にしながら受益者に交付されるのが通常です。
そのため、信託SO発行後にポイント付与規程を発行会社において策定する必要があり、そこで策定されたルールに従ってポイント付与がなされることとなります。